市川優の短編書房

小説、漫画などの短編作品を紹介します

小説

【小説/書評】高橋源一郎『ガドルフの百合』文字の欠如が生み出す「省略化していく世界」

高橋源一郎『ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ』(集英社)より 『ガドルフの百合』 // リンク 宮沢賢治の作品タイトルを原題のまま使い、小説家が独自の新たな世界を構築した物語群の1つである。 主人公のガドルフはホテルのような部屋のベッドで目を覚…

【小説/書評】平山夢明『暗くて静かでロックな娘』大切な人の存在を認識させるモノとは

平山夢明『暗くて静かでロックな娘』(集英社) // リンク 大切な人の存在を認識させるモノとは何か。 男はある女と出会う。彼女は目も見えず、耳も聞こえないのだが、彼の香りに強く反応して彼の腕に抱きついた。そこから二人の物語は始まる。 彼女は彼女の…

【小説】アンドルー・ラング編『マスターメイド』マイナスからプラスへと導く、旅の効果

アンドルー・ラング編『アンドルー・ラング世界童話集第1巻 あおいろの童話集』(西村醇子監修、杉本詠美ほか訳、東京創元社)より 『マスターメイド』 // リンク 人が旅に出る形式の物語はよくある。旅に出ることで未知の世界に触れ、再び以前いた場所へと…

【小説】アンドルー・ラング編『アラディンと魔法のランプ』主人公だけが許される暴力性

アンドルー・ラング編『アンドルー・ラング世界童話集第1巻 あおいろの童話集』(西村醇子監修、菊池由美ほか訳、東京創元社)より 『アラディンと魔法のランプ』 // リンク ディズニーのアニメーション映画「アラジン」の原案だといえば、ピンとくる人も多…

【小説】アンドルー・ラング編『ヒヤシンス王子とうるわしの姫』自分に近い他者の存在で、本当の自分を知る

アンドルー・ラング編『アンドルー・ラング世界童話集第1巻 あおいろの童話集』(西村醇子監修、ないとうふみこほか訳、東京創元社)より 『ヒヤシンス王子とうるわしの姫』 // リンク うぬぼれが強いと自分の真の姿を認識できなくなる。物語はそうした教訓…

【小説】重松清『卒業』数字だけでは見えない、自殺者そして残された者の思いと記憶

重松清『卒業』(新潮社) // リンク 現代の日本において、「自殺」は深刻な社会問題の一つである。 ただ、その問題の取り上げ方は自殺者数という数字に偏った語りが多く、自殺者、そして周りの人々への思いへの意識が欠けているように感じていた。 本作のテ…

【小説】谷崎潤一郎『刺青』刺青を介した男女の立場の逆転、そして完全な姿への変貌

谷崎潤一郎『谷崎潤一郎フェティシズム小説集』(集英社)より 『刺青』 // リンク 若い刺青師の清吉は、「光輝ある美女の肌」に、「己れの魂を刺り込む事」が長年の夢であった。ある日、料理屋の前に止まった駕籠の簾のかげから伸びる女の足を見て、この者…

【小説】山川方夫『夏の葬列』過去と決別しようとした男が背負う、更なる罪

山川方夫『夏の葬列』(集英社) // リンク 主人公の男は、疎開児童として住んだ海岸の小さな町に約10年ぶりに訪れる。そして、喪服を着た小さな葬列を目にし、当時の記憶がよみがえる。 男は幼い時に航空機による戦闘に巻き込まれ、自分の命を守るためにあ…

【小説】平山夢明『独白するユニバーサル横メルカトル』地図が親子の凶行を語る

平山夢明『独白するユニバーサル横メルカトル』(光文社) // リンク 第59回日本推理作家協会賞を受賞した平山夢明『独白するユニバーサル横メルカトル』(光文社)。表題作の語り手として登場するのはなんと、「地図」だ。 持ち主であるタクシー運転手、そ…

【小説】ゴーリキー『二十六人の男と一人の少女』劣悪な環境で生じる集団による負の「同一化」

ゴーリキー『ゴーリキー短篇集』(上田進・横田瑞穂訳編、岩波書店)より 『二十六人の男と一人の少女』 // リンク ゴーリキーの『二十六人の男と一人の少女』(ゴーリキー短篇集、上田進・横田瑞穂訳編、岩波書店)では、劣悪な環境のパン工場で働く二十六…

【小説】テッド・チャン『息吹』一人称で紡ぐ物語、そして卓越した描写力

テッド・チャン『息吹』(大森望訳、早川書房) // リンク 現代SF界を代表する作家との呼び声が高いテッド・チャンのSF短編集『息吹』(大森望訳、早川書房)。空気が空になった肺を満杯の肺と交換して生活を続け、そのモノたちには永遠の寿命がある。そうし…

【小説】チェーホフ『六号病棟』「世間」という権力が貼る狂人のレッテル

チェーホフ『六号病棟・退屈な話他五篇』(松下裕訳、岩波書店)より 『六号病棟』 // リンク ロシアの小説家チェーホフ(1860-1904)の『六号病棟』(六号病棟・退屈な話他五篇、松下裕訳、岩波書店)には、日常そして世間に潜むじめじめとした闇が描かれて…

【小説】ポー『盗まれた手紙』推理者と犯人の知性のズレで生じる「落とし穴」

エドガー・アラン・ポー『ポー名作集』(丸谷才一訳、中央公論新社)より 『盗まれた手紙』 // リンク 探偵はどのようにして犯人の心理を読むか。米国の小説家・詩人エドガー・アラン・ポー(1809-49)の「盗まれた手紙」(ポー名作集、丸谷才一訳、中央公論…