市川優の短編書房

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【小説】山川方夫『夏の葬列』過去と決別しようとした男が背負う、更なる罪

山川方夫『夏の葬列』(集英社

 

主人公の男は、疎開児童として住んだ海岸の小さな町に約10年ぶりに訪れる。そして、喪服を着た小さな葬列を目にし、当時の記憶がよみがえる。

男は幼い時に航空機による戦闘に巻き込まれ、自分の命を守るためにある女の子を危険な目に遭わせてしまった。その記憶は常に男の辛い過去としてつきまとい続けていた。

現在で目撃した葬列の写真を深く観察すると、その時の女の子が成長した顔に見えた。自分のせいで彼女は死ななかったのだと、男は安堵するが――。

真実は彼に更なる罪の意識を背負わせることに。過去の辛い記憶と決別するために訪れたが、現実によってよりひどい仕打ちを受けることになる。

写真を見た際の、男のセリフが印象的だ。「この十数年間を生きつづけたのなら、もはや彼女の死はおれの責任とはいえない」「おれはまったくの無罪なのだ!」と、過去の自分の行動を擁護する言葉が並ぶ。男はかつてと変わらず、やはり我が身可愛さを考えるているように見える。

過去と同じく、そうした考え方によって男に降りかかった更なる悲劇。何とも悲しい皮肉である。