市川優の短編書房

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【漫画】榎本俊二『斬り介とジョニー四百九十九人斬り』読後に不吉な予感を残して

榎本俊二『斬り介とジョニー四百九十九人斬り」(講談社

 

あとがき漫画で、漫画家は本作のアイデアとして編集者に「とてもヒドイ話で侍がひと太刀で何百人も斬り殺すんです」とこぼしていた。まさにその通りの漫画である。

ストーリーは至ってシンプル。娘を盗賊にさらわれたある村が、偶然通りがかった2人組の侍に救出を依頼する。たっぷりの食べ物と飲み物を報酬にするのを条件に、侍は盗賊のアジトに向かう。そして、大勢の盗賊を斬る。以上である。

冒頭のコンセプト通り、斬る場面を徹底的に重視しているのが特徴だ。様々な視点で倒す場面を描いたり、刀がコマを突き破ったりと、躍動感にあふれる戦闘シーンがひたすら続いていく。

斬る場面が永遠と続くが、デフォルメされたキャラクターで描くことで、そこまでグロテスクな印象は受けない。あくまでもエンターテインメントとして作品を成立させることにこだわったのだろう。

最終的に2人組の侍は盗賊だけでなく、勢い余って娘すらも斬ってしまう。そして、彼女の遺体を村へと運ぶことになる。

最後のコマは黒い背景に、顔に暗い影を落とした2人組の侍のクローズアップ。セリフも非常に少なく、キャラクターの性格や心理なども最後まで全くわからないままだ。そのため、物語が幕を閉じても、何とも言えない不吉な予感がするのである。