市川優の短編書房

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【漫画/書評】志村貴子『志村貴子作品集 かわいい悪魔』魔女は私たちの日常にいる

志村貴子志村貴子作品集 かわいい悪魔』(太田出版

 

魔女についての解釈がなかなか面白い。この漫画家にとって魔女とは、日常に溶け込む存在なのである。

ある日、男の子は若い女性の姿をした魔女と出会う。そして彼女は、男の子の家族の一員や学校の先生、医者などに成り代わって彼に付きまとう。

これが魔女の持つ力なのか。周りの人々も彼女について特に違和感を覚えず、変わらない日常を過ごしていく。

また、5話で突然明らかになったのが、男の子の母親も実は魔女見習いだったということ。そして、自分が魔女だったという記憶を無くしているのだ。

魔女も最終的には男の子の母親の魔女見習いと同じく、魔女だったという記憶を無くし、男の子の姉として暮らすことになる。

そして、ラストのコマにあるこの言葉で物語は幕を閉じる。「魔女との出会いは実はそこかしこで起こっている日常なのに/世の中に魔女なんかいないことになってるっていうのは/まあつまりそういうことなのです」

魔女が男の子に出会ったのも、見習い魔女が幼い頃に現在の夫に出会ったのも、雨の日だった。本作において「雨の日の出会い」というマンガ記号は、運命的な出会いを表しているのだろう。

そして、運命的な出会いを果たしたということは、魔女の記憶を無くすのとイコールなのだ。やがて魔女は運命の人のそばで、人間として生きていくことになる。

神秘的な存在が私たちの非日常ではなく、むしろ日常にこそ潜んでいるのかもしれない。こうした魔女における独自の解釈に引き込まれた。