市川優の短編書房

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【漫画】九井諒子『竜の学校は山の上』人種の違いを深くかつ軽やかに表現

九井諒子『竜の学校は山の上』(エンターブレイン

 

現在連載中である「ダンジョン飯」の九井諒子による全9作を収録した作品集『竜の学校は山の上』。その中の一作品『現代神話』では人類が「猿人」「馬人」に分かれた世界が描かれている。

猿人・馬人の夫婦と、同じく会社の先輩と後輩の2つのエピソードを軸に話は進む。おそらく現在の人類がモデルとなっている猿人に対して、馬人は短い睡眠時間で長時間活動できるという優れた存在であり、両者の間には大きな隔たりが存在する。

夫婦、先輩後輩の日常や会社での日々を通じて、互いが違う存在であることを受け入れ、そして認め合うような展開になる。ただ、ニュースでは、変わらず人種間に横たわっている問題を絶えず発信し続ける。それを見た夫が「くだらない」とつぶやいたのに対し、妻が放つ「なんにも違わないのよ」のセリフが印象的だ。

人種の埋めようのない違いが描かれるが、何気ない日常を通してその違いも互いが持つ一つの個性のようなものだと提示されているかのようだ。その絶妙なバランスが良い。作者の物事を多角的に見る視点が生かされている。