市川優の短編書房

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【漫画/書評】浅野いにお『虹ヶ原ホログラフ』「説明のできない絶望感」を説明する

浅野いにお『虹ヶ原ホログラフ』(太田出版

 

過去と現実、そして夢が交錯した複雑なストーリー構成。

同じ地点に同一の登場人物が存在するといった時間SFの要素。

牛の体と人間の顔を持つ妖怪「件」や、怪物の存在を象徴する「蝶」といった超自然的な存在。

これらが複雑に絡み合った完成度の高い1作である。

浅野作品を読んでいてよく感じるのが消極的・受動的ニヒリズムとも呼べるような、何とも言えない虚無感である。向かうべきところを失った現代人が抱える、なぜだかはわからないが自分が不幸であるように感じる「説明のできない絶望感」とでもいえようか。

その時代性を表しているような空気感を、キャラクターの内面や立たされた状況などで巧みに表現している。物語を通じて、漫画という媒介を通じて、浅野は「説明のできない絶望感」を何とか説明しようと試みているようでもある。

また、浅野は本作でも『ソラニン』『世界の終わりと夜明け前』と同様にメインキャラクターとして眼鏡の男を登場させているのも個人的には興味深い。これは漫画家自身の像をキャラクターに反映しているのだろうか。それとも全く違う意味があるのだろうか。気になるところである。