市川優の短編書房

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【小説】アンドルー・ラング編『アラディンと魔法のランプ』主人公だけが許される暴力性

アンドルー・ラング編『アンドルー・ラング世界童話集第1巻 あおいろの童話集』(西村醇子監修、菊池由美ほか訳、東京創元社)より

『アラディンと魔法のランプ』

 

ディズニーのアニメーション映画「アラジン」の原案だといえば、ピンとくる人も多いことだろう。ただ、ストーリーやキャラクター設定は微妙に異なっている。

仕立て屋の怠け者の息子アラディンは、ある日現れた自分のおじだと名乗る魔術師と旅に出かける。ある場所で魔術師はアラディンに、穴の中に入ってランプを取ってくるよう命じる。

ランプを取って穴の入り口まで帰ってくるが、ランプを渡すのをためらったために、魔術師によって穴に閉じ込められる。何とかして脱出したアラディンは、自分が手にしたランプが「魔法のランプ」だと知る。

何でも願いを叶えてくれるそのランプを駆使して、アラディンはのし上がり、王女と結婚する。

主人公のアラディンは未熟だ。ランプの力を使って王女を拉致したり、王女と結婚できるように母親に王様を説得するよう命令したりと、自己中心的な存在である。作中でアラディンはランプの力に終始執着し、ランプを手にする前と比べても大して心理的に成長したようにはみえない。

だが、物語でアラディンは最終的に幸福になり、また幸福になるべき存在として描かれている。彼は魔術師からの試練を乗り越え、ランプという証を手に入れたために、絶対的な存在として君臨する。

そうした通過儀礼を経たことで、彼は力をどのように行使しても許されるのだ。対立する魔術師と同じく、いやそれ以上に暴力的でありながらも、彼だけは許されてしまうのである。