市川優の短編書房

小説、漫画などの短編作品を紹介します

【漫画/書評】藤子不二雄Ⓐ『ひっとらぁ伯父サン』私たちは「笑い」「笑われる」

藤子不二雄Ⓐ『藤子不二雄Ⓐブラックユーモア短篇集①』(中央公論新社)より

『ひっとらぁ伯父サン』

 

<ひとつミョーな漫画を描いて、人をオモシロがらせてみたい!>。漫画家はあとがき「奇妙なものへの憧れ」で、ブラックユーモア・コミックを描く衝動をこう語る。

物語はナチス・ドイツを率いたヒトラーに顔が似た伯父さんが、郊外に引っ越してある家族の家に下宿する。巧みな話術と高い行動力で町の人々の支持を集める一方、敵対する者には破滅をもたらしていく。

伯父さんは、深夜にワーグナーの音楽を鳴らしたり、急に癇癪を起こしたりと個性的である。読者にとってそうした伯父さんの行動は一般的な感覚とは逸脱したものであり、そのおかしな行動は笑えることだろう。

ただ。それとは違う笑いの視点も本作には存在する。それは伯父さんから見た大衆の姿である。

伯父さんは下宿初日の日記に、住人たちのことを「愚劣な者ばかりなり」と記す。自分とは違う下等な生物を嘲る「攻撃的な笑い」なのだろう。

本作にはこの二つの視点の「笑い」が混在する。私たち読者は歴史上の人物を風刺したキャラクターを笑うのと同時に、キャラクターに笑われる存在でもあるのだ。