市川優の短編書房

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【漫画】さわぐちけいすけ『僕たちはもう帰りたい』働く人なら理解できる悩み、ここにあり!

さわぐちけいすけ『僕たちはもう帰りたい』(ライツ社)

 

わかる、わかるぞ、その悩み! 働く人たちの職場そして日常の悩みを題材にした『僕たちはもう帰りたい』(さわぐちけいすけ、ライツ社)。タイトルを一目見た瞬間に、「その言葉よくつぶやくわー」、なんて思った人も多いことだろう。ちなみに私は本書を読んで初めて、「全日本もう帰りたい協会」という存在を知った。

「お付き合い残業」「板挟み」「非効率な会社」など、様々な悩みを抱える男女が作中に登場し、その具体的なエピソードが綴られている。そして、決め台詞である「もう帰りたい」を口に出す。

個人的にはおじさんを主人公にした、最終章の『職場にも家にも「居場所」がなくて、もう帰れない』が良い。家庭よりも仕事を重視し、また職場でも時代の変化についていけない男の、「帰ることすらもできない」哀愁が漂う。

このエピソードを入れたおかげで、若い世代だけでなく、上の世代も同じように悲しみや辛さを抱えていることがわかる。異なる視点から描くことで、どちらかに偏ることなく漫画全体のバランスが取れたように感じる。

いずれのエピソードもなんとなくハッピーエンドな雰囲気で終わるので、読後の後味も悪くない。同じような悩みを抱える読者に寄り添いながら、そっと背中を押してくれる一冊だろう。