市川優の短編書房

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【小説】平山夢明『独白するユニバーサル横メルカトル』地図が親子の凶行を語る

平山夢明『独白するユニバーサル横メルカトル』(光文社)

 

第59回日本推理作家協会賞を受賞した平山夢明『独白するユニバーサル横メルカトル』(光文社)。表題作の語り手として登場するのはなんと、「地図」だ。

持ち主であるタクシー運転手、そしてその子どもへと受け継がれた凶行を地図は道具として手助けし、それと同時にその内容を細かく記憶する。その内容を自身の主観を混ぜながら独白していく。

無生物である地図は、客観的かつ理性的な存在として描かれる。「申し遅れまして相済みません」「御嗤笑下さいませ」など、「です・ます体」を基本とした、主に従う執事をどこか彷彿とさせるような語り口が続く。

長い歴史を歩んできた地図がもし命を宿したとしたら、こうした話し方をするかもしれない。そう思わせる絶妙なキャラクター設定が功を奏し、語られる物語が凄惨なものであるにも関わらず、どこか全体的にユーモラスな雰囲気があり、すらすらと読み進められる。