【小説】谷崎潤一郎『刺青』刺青を介した男女の立場の逆転、そして完全な姿への変貌
『刺青』
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若い刺青師の清吉は、「光輝ある美女の肌」に、「己れの魂を刺り込む事」が長年の夢であった。ある日、料理屋の前に止まった駕籠の簾のかげから伸びる女の足を見て、この者こそが自分の追い求めていた女だと直感する。ただ、その日は彼女の姿を見失ってしまう。
約1年後。清吉のもとに馴染みの芸妓から使の者がやってくる。彼女こそ以前に見失った運命の女であり――。
男は2本の巻物を取り出し、恐ろしい絵を彼女に見せる。そして、その絵に描かれた女こそ、お前の本当の姿なのだと告げる。そして、彼女を眠らせ、刺青を施す。
「親方、どうか私を帰しておくれ。お前さんの側に居るのは恐ろしいから」と語った彼女。だが刺青を入れられたことでその臆病な性格は豹変する。男の言葉どおり、彼女は絵に描かれた女のようになる。
出会った直後の二人の関係は、男側が力を持っているように描写力されるが、刺青を入れたことによってその関係性は一気に逆転する。刺青を入れたことで、彼女は無意識の自分を取り込み、完全な姿となったのだ。そう、男どもを「肥料」とする女に。