市川優の短編書房

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【漫画】安野モヨコ『監督不行届』漫画家と監督による夫婦の日常と根底にあるプロ意識

安野モヨコ『監督不行届』(祥伝社

 

女性漫画家が夫との夫婦生活を綴ったエッセイ漫画。ただし、二人の日常はやや特殊である。なぜなら、彼女の夫とは大ヒットを記録している「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズの監督こと、庵野秀明だからだ。

「日本のおたく四天王」と呼ばれる夫のもとで、漫画家はオタクの英才教育を施されていく。少しずつオタクへの道に染まっていく彼女の姿が面白くもあり、微笑ましい。

それと並行して描かれるのが、監督の生態である。「擬音を口にする」「風呂にあまり入らない」「めんどくさがり」などのエピソードが描かれ、ぼんやりと抱いていた監督のイメージとのギャップに驚く。

ただ、そのクセのある性格に対して、「まあウチの夫はこんな感じなんですよ、ふふふ」のような温かいまなざしを彼女は向ける。そこには大切な人のことを理解しようと努め、そして徹底的に肯定しようとする姿がある。

巻末にある監督インタビューで庵野はこの漫画に対して、「実話と創作が入り交じっています」と話す。それは、妻が「ただのオノロケマンガにならないよう、読者サービスを主体にいつも真摯に考えて」いたからだという。

「衆目に己の姿をさらされるというのは、マンガ家を嫁にもらった者の宿命」だと監督は語る。彼が、そして彼女が常にクリエイターであることを意識している姿が浮かぶ。漫画内の面白い物語の根底には、作品制作に魂を捧げる二人のプロの姿がある。