【小説】アンドルー・ラング編『ヒヤシンス王子とうるわしの姫』自分に近い他者の存在で、本当の自分を知る
アンドルー・ラング編『アンドルー・ラング世界童話集第1巻 あおいろの童話集』(西村醇子監修、ないとうふみこほか訳、東京創元社)より
『ヒヤシンス王子とうるわしの姫』
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うぬぼれが強いと自分の真の姿を認識できなくなる。物語はそうした教訓を伝えているかのようだ。
ある王様は姫と結婚するために、魔法使いにある呪いをかけられてしまう。その呪いとは、後に生まれる王子が自身の鼻の長さに気付かない限り、王子は幸せになれないというものであった。
誕生した王子は幼い頃からまわりの者たちに、長い鼻であることは美しいことであると教わり、それを真に受けて育っていった。
そして、王子も王様と同じく、とある姫に心を奪われることとなる。だが、事は上手く運ばず、姫は魔法使いにさらわれしまう。
王子は姫を探す旅の途中で妖精のおばあさんと出会う。おばあさんは、自身が若い時に口数が少ないことでまわりの人から感心されたという自慢話を披露する。
ただ、その言葉とは裏腹におばあさんのおしゃべりは止まらない。その様子を見た王子は「取り巻きにちやほやされて、自分が口数が少ないと思いこまされてしまったのだろう」と考える。
王子とおばあさんの姿は重なって見える。その後、王子は自分の姿を正しく認識することになるが、それはおばあさんの存在を通して自分の姿を客観的に見ることができた経験からではないだろうか。
私たちは自分たちの姿を、その目で直接見ることができない。なので、他者が必要になる。最も自分の存在に近い他者というフィルターを通してでしか、自分らしき存在を捉えることができないのだから。