市川優の短編書房

小説、漫画などの短編作品を紹介します

【漫画】藤田和日郎『邪眼は月輪に飛ぶ』未知なる恐怖に立ち向かうために必要な心得とは

藤田和日郎邪眼は月輪に飛ぶ』(小学館

 

自分が理解できぬ存在に、人間は恐怖を抱く。そして、その恐怖の対象を隔離または排除するなどして人類はその歴史を歩んできた。

本作で恐怖の対象となるのは、一匹のフクロウである。それに見つめられた生き物は全て死んでしまうという設定で、物語では多くの死者が出ることとなる。

漫画家は後記において様々な資料に目を通した上で、「人間は自分とよく似たものを持つ動物に、人格を、超自然を感じ、畏れて暮らしてきたようです」と述べる。フクロウの場合、その大きく見開かれた目が人間のパーツに似ていたので、その目を恐ろしいものとして描いたのだろう。

物語で魔の生物に立ち向かうことになるのは、かつてそのフクロウに傷を負わせた高齢の猟師である。

猟師はフクロウを狙撃する作戦で集まった優秀なスナイパーらに対して問う。「おのれらは何で獲物を畏れん?」「何で、自然の前でかしこまれねえんだ?」と。そして、案の定、彼らはフクロウとの戦いで命を落としてしまう。

なぜ彼らは命を落としたのか。そして、なぜ猟師は生き残ることができたのか。

それは自分が非力な存在であることを受け入れ、未知なるものに対して恐怖を抱けるかどうかの差である。その準備ができた先に、やるべきこと、そして切り開ける未来が見えてくるのだろう。