市川優の短編書房

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【漫画】沙村広明『ブラッドハーレーの馬車』過激な表現の先にある少女たちのドラマ

沙村広明『ブラッドハーレーの馬車』(太田出版

 

権力という名の装置が、少女らをどれほど傷付け、そしてその所業を正当化するのかをまざまざと見せつけられた思いだ。

ブラッドハーレーという公爵家の養女に選ばれた少女たちは、馬車に乗って孤児院を後にする。彼女らは公爵家が抱える歌劇団に入れると期待するが、辿り着いたのは刑務所だった。

そして、彼女らはその刑務所の囚人たちに残忍な暴力を振るわれることになる。

この非人道的な「祭り」は以前起きた大規模暴動を受けて、ブラッドハーレー家と政府がこうした暴動を未然に防ぐために作ったシステムである。これを利用することで囚人たちの暴力的な欲求を満たそうとしたのだ。

全編を通してストーリーは過酷なものであり、救いは一切ない。第一話では少女が暴行を加えられるシーンが具体的に描かれる。

だが、その後のエピソードでは暴力的な場面は途端に少なくなる。

第一話において残酷な場面を克明に描くことで、その後そうした場面がなくても刑務所を描くだけで読者に「祭り」の場面を想像させる。

また、物語は暴力的な表現を省略することで、連れて行かれた者、そこで過ごす者、残された者たちの人間ドラマへと焦点を移していく。

ただ単に過激な描写で魅せるのではなく、その過酷な状況を通して少女らの願いや妬み、悲しみなどの感情を深く表現する。その巧さにこの漫画家の実力が垣間見えることだろう。