市川優の短編書房

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【漫画】石黒正数『外天楼』短編がゆるやかに繋がり大きな物語を形作る

石黒正数『外天楼』(講談社

 

ギャグっぽい短編を読み進め、後半に「むむむっ」と思わせる展開に少し驚いた。石黒正数『外天楼』(講談社)は、一つひとつが短編として成立している小さな物語と、その全てが実は少しずつリンクして大きな物語を作っているという構造になっている。

「外天楼」と呼ばれる集合住宅の住人やその知人といった登場人物に、殺人事件やロボット工学、人口生命体などの話題を織り交ぜ、物語を作り上げていく。

全体の物語に大きく絡むのは「アリオ」という男の子と、そしてその姉である「キリエ」。エロ本を巡るコメディ要素満載の最初の短編『リサイクル』ではアリオは中学生だが、その後の物語では月日が過ぎ、サラリーマンになる。ただ姉のキリエは最初の短編と同じ姿のまま。その謎とは――。

キャラクターの造形が全体的にギャグ漫画風であるため、物語後半にややシリアスな展開になってもそこまで重くならずにスラスラと読める。その辺の細かなバランスについては、作者がかなり気を遣ったのではないだろうか。

ラストシーンは雪が降りしきる土地。逃走するアリオとキリエが、なぜこの場所に向かったのか。謎は残る。