市川優の短編書房

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【漫画/書評】ヤマシタトモコ『Love,Hate,Love.』諦めることは「キライ」になること、ではない

ヤマシタトモコ『Love,Hate,Love.』(祥伝社

 

何かを失ったら、何かで補完したいという心理が働く。本作の場合でいえば、恋愛が空虚を埋める役割を果たしているのだろう。

主人公である28歳の女性バレエダンサーは、舞台に立つダンサーの道を諦め、バレエ教室の講師の道を選ぶ。

その日、彼女は何か新しいことを始めようと思い、ベランダでタバコに挑戦しようと吸い始めるが、むせてしまう。その時、隣のベランダにいた52歳の大学教授にこう言われる。「その年まで要らなかったんなら要らないモノなんだからやめときなさい」と。

そして、彼女は大学教授に恋心を抱き、また大学教授も彼女に好意を寄せることになる。

彼女の周りの人間は、ダンサーを諦めることに対してあまり良いように思っていない。諦めるということは、それまで必死にやってきたことを「キライ」になることだ。そういう価値観がゆえの態度なのだろう。

ただ、彼女は彼との関係性を通じて、バレエとの関係性を再構築する。何かを諦めることが必ずしも「キライ」になることではない。ずっと好きだったものを「スキ」のままでいられるような手段でもあり得るのだ。

男性との関係で自問自答を繰り返していく中で、彼女は「スキ」「キライ」で埋め尽くされた世界を今までとは違う方法で解釈できるようになるのだ。