市川優の短編書房

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【漫画/書評】マッチロ『BIBLIOMANIA』内側と外側の世界、どちらに救いがあるか

マッチロ『BIBLIOMANIA』(おおばる脚本、コミックダイス)

 

内側の世界に閉じこもるのと、外側の世界に飛び出していくのとでは、どちらがより幸福になれるのであろうか。

少女アリスは目が覚めると真っ白の空間にいた。そこで「ヘビ」と名乗る怪物と出会う。

その不思議な部屋では、願った望みを叶えてくれるという。だが、アリスは部屋にある扉を開けて、外の世界へと帰ろうとする。その隣の部屋では、アリスと同じく閉じ込められた住人がいた。

各部屋の住人は、部屋が保有する願いを叶える魔力を使い、それぞれ理想の姿や世界をその部屋の内部で構築していた。ある者は自分をいじめたクラスメイトを殺し続け、そしてある者はひきこもりである自分の姿から目を背けるためにヒーローへと変身する。

どの住人にも共通するのは、現実という恐怖である。彼らには、耐え難い恐怖が現実世界にあり、その世界から逃避できるこの空間にいることこそが幸せなのである。

ただ、その世界は自分が作り出したものであるがゆえに、その願いのそもそもの根源である現実は常に彼らに付きまとうことになる。目を背ければ背けるほど、その現実はより巨大になり、彼らを苦しめていくのだ。

その中で外に出ることを唯一望むのが、「ヘビ」だ。彼はある条件を満たし、やがて外の世界へと飛び出す。ただ、ヘビもまた現世で自分よりもはるかに巨大な存在と対峙し、恐怖することになる。

本作では内と外のどちらにも救いはない。今いる場所も、そして今いる場所から離れるために辿り着いた場所でも。