市川優の短編書房

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【漫画/書評】岡崎京子『ヘルタースケルター』他者の欲望が形作る「私」

岡崎京子ヘルタースケルター』(祥伝社

 

私の姿を形作るのは、他者の欲望である。

カリスマ的な魅力を持つ女性りりこは、モデルやタレント、女優として絶大な人気を誇っていた。しかし、彼女の美貌には秘密がある。それは、その美しさが整形で作られたということだ。

彼女は「皮をはぎ/脂をとかし/肉をそぎ肉を詰め/歯を抜き/あばら骨をけずって/つくった娘」なのだ。

だが、ある日を境に肉体に異変が起き始める。それと同時に、精神状態も徐々に不安定になり――。

リリコの姿を形作るのは、他者の欲望である。その美しさは世の女性たちが渇望するものであり、また事務所の女性社長の若い頃の姿でもあるのだ。

また、整形の秘密が世間にばれると、その情報を大衆は楽しんだ。それは大衆が高嶺の花が堕落していくという「物語」を求めたからであり、その欲望に従うように彼女はまんまとその道を歩むこととなる。

最後に、彼女は突如姿を消す。これによって彼女の存在は「神話と伝説」となる。この出来事を大衆は「物語」としてさらに消費した。だが、やがて彼女に対する興味が無くなると、また別の欲望を探すことだろう。

意識的または無意識的に他人の欲望を取り込み、彼女はその望むものに姿を変え、望まれたように行動する。元々保有していたパーツをほぼ失った器に、膨張していく他者の欲望を入れていく様は悲劇的であり、どうしようもなく現実的である。