市川優の短編書房

小説、漫画などの短編作品を紹介します

【小説】谷崎潤一郎『刺青』刺青を介した男女の立場の逆転、そして完全な姿への変貌

谷崎潤一郎『谷崎潤一郎フェティシズム小説集』(集英社)より 『刺青』 // リンク 若い刺青師の清吉は、「光輝ある美女の肌」に、「己れの魂を刺り込む事」が長年の夢であった。ある日、料理屋の前に止まった駕籠の簾のかげから伸びる女の足を見て、この者…

【漫画】田中圭一『田中圭一最低漫画全集 神罰1.1』シュールな下ネタ、漫画の神様味

田中圭一『田中圭一最低漫画全集 神罰1.1』(イースト・プレス) // リンク 漫画家・手塚治虫をメインにしたパロディ漫画だ。ネタは基本的に下ネタばかりであるが、作風の再現度は非常に高い。イラストだけでなく、コマ割りや書き文字などの要素も模倣されて…

【小説】山川方夫『夏の葬列』過去と決別しようとした男が背負う、更なる罪

山川方夫『夏の葬列』(集英社) // リンク 主人公の男は、疎開児童として住んだ海岸の小さな町に約10年ぶりに訪れる。そして、喪服を着た小さな葬列を目にし、当時の記憶がよみがえる。 男は幼い時に航空機による戦闘に巻き込まれ、自分の命を守るためにあ…

【漫画】田中相『地上はポケットの中の庭』巨大な虫がやってくる非日常の日常

田中相『地上はポケットの中の庭』(講談社)より 『5月の庭』 // リンク 主人公の男子高校生・山崎が、アルバイト先のコンビニでコガネムシを助けた。すると、言葉を話す人間ほどのサイズのコガネムシが、恩返しをしようと彼のもとを訪れる。 ただ、向かっ…

【小説】平山夢明『独白するユニバーサル横メルカトル』地図が親子の凶行を語る

平山夢明『独白するユニバーサル横メルカトル』(光文社) // リンク 第59回日本推理作家協会賞を受賞した平山夢明『独白するユニバーサル横メルカトル』(光文社)。表題作の語り手として登場するのはなんと、「地図」だ。 持ち主であるタクシー運転手、そ…

【漫画】平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ』友との記憶に向き合い、自分のトラウマを乗り越える

平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ』(KADOKAWA) // リンク 亡くなった女友達の遺骨とともに、彼女との記憶の旅に出かける。そうした物語を荒々しく、そして繊細に描いた平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ』(KADOKAWA)。 主人公の女性シイノは、友人…

【小説】ゴーリキー『二十六人の男と一人の少女』劣悪な環境で生じる集団による負の「同一化」

ゴーリキー『ゴーリキー短篇集』(上田進・横田瑞穂訳編、岩波書店)より 『二十六人の男と一人の少女』 // リンク ゴーリキーの『二十六人の男と一人の少女』(ゴーリキー短篇集、上田進・横田瑞穂訳編、岩波書店)では、劣悪な環境のパン工場で働く二十六…

【漫画】さわぐちけいすけ『僕たちはもう帰りたい』働く人なら理解できる悩み、ここにあり!

さわぐちけいすけ『僕たちはもう帰りたい』(ライツ社) // リンク わかる、わかるぞ、その悩み! 働く人たちの職場そして日常の悩みを題材にした『僕たちはもう帰りたい』(さわぐちけいすけ、ライツ社)。タイトルを一目見た瞬間に、「その言葉よくつぶや…

【小説】テッド・チャン『息吹』一人称で紡ぐ物語、そして卓越した描写力

テッド・チャン『息吹』(大森望訳、早川書房) // リンク 現代SF界を代表する作家との呼び声が高いテッド・チャンのSF短編集『息吹』(大森望訳、早川書房)。空気が空になった肺を満杯の肺と交換して生活を続け、そのモノたちには永遠の寿命がある。そうし…

【漫画】石黒正数『外天楼』短編がゆるやかに繋がり大きな物語を形作る

石黒正数『外天楼』(講談社) // リンク ギャグっぽい短編を読み進め、後半に「むむむっ」と思わせる展開に少し驚いた。石黒正数『外天楼』(講談社)は、一つひとつが短編として成立している小さな物語と、その全てが実は少しずつリンクして大きな物語を作…

【小説】チェーホフ『六号病棟』「世間」という権力が貼る狂人のレッテル

チェーホフ『六号病棟・退屈な話他五篇』(松下裕訳、岩波書店)より 『六号病棟』 // リンク ロシアの小説家チェーホフ(1860-1904)の『六号病棟』(六号病棟・退屈な話他五篇、松下裕訳、岩波書店)には、日常そして世間に潜むじめじめとした闇が描かれて…

【漫画】浅野いにお『零落』漫画家が描く世に自分に絶望する「漫画家」

浅野いにお『零落』(小学館) // リンク 30代後半ぐらいの男性漫画家を主人公に設定した、浅野いにお『零落』。仕事である漫画、そして家庭などで様々な問題に過剰に悩み、絶望する男の孤独が丹念に描かれている。 浅野は以前にも漫画家を主人公にしたこと…

【小説】ポー『盗まれた手紙』推理者と犯人の知性のズレで生じる「落とし穴」

エドガー・アラン・ポー『ポー名作集』(丸谷才一訳、中央公論新社)より 『盗まれた手紙』 // リンク 探偵はどのようにして犯人の心理を読むか。米国の小説家・詩人エドガー・アラン・ポー(1809-49)の「盗まれた手紙」(ポー名作集、丸谷才一訳、中央公論…

【漫画】穂積『式の前日』ある日の日常をミスリードで鮮やかに

穂積『式の前日』(小学館) // リンク 全7作を収録した穂積『式の前日』(小学館)の表題作は、男女の特別な1日が描かれている。「明日結婚する」「社会人三年目」「仕事も安定してきた」と、冒頭3ページに渡って人物の心の声が文字で浮かぶ。女性は明日結…

【漫画】九井諒子『竜の学校は山の上』人種の違いを深くかつ軽やかに表現

九井諒子『竜の学校は山の上』(エンターブレイン) // リンク 現在連載中である「ダンジョン飯」の九井諒子による全9作を収録した作品集『竜の学校は山の上』。その中の一作品『現代神話』では人類が「猿人」「馬人」に分かれた世界が描かれている。 猿人・…